大阪で活動している認定ドッグビヘイビアリストです。
南イリノイ大学で犬猫の基礎栄養学~臨床栄養学を学び、総合栄養食の手作り食レシピ作成も行っています。
痛みは、私たち動物が生きていくうえで非常に重要な感覚機能です。痛覚がなければ自分に及ぶ危険を避けて、生き延びることが難しいでしょう。
“痛み”は体からの警告であり、この感覚があるからこそ生物が生きていくことができます。
目次
痛みに個人差はある?
痛みの感じ方には個人差がある!と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。例えば、注射がとても痛いと思う人、あまり痛くないと思う人…。
この差は、遺伝的要素が関係していると言われています。つまり、生まれつき痛みに強い人、弱い人がいるということです。また、心理的要因や環境的要因も痛みの感じ方に影響すると考えられています。
では、痛みの感じ方は同じように犬にも個体差があるのでしょうか。多頭飼い(特に異なる犬種)をしている方は、「犬種によって痛みの感じ方に違いがあるのでは?」と薄々感じる方もいると思います。
私はトイプードルとボーダーコリーの2匹と一緒に暮らしていますが、この痛みに対する感受性の違いは存在するように思います。
例えば、トイプードルは、公園の芝生を散歩しているときに、少しチクチクした植物を踏むだけで、歩くのを拒否したり、歩きにくそうにして、痛みをあらわします。一方のボーダーコリーは、足を踏まれようが、肉球がズル剥けになろうが、舌を自分で噛んでしまい血だらけになろうが、今まで痛みを感じるような仕草を見せたことがありません。(これはこれで大丈夫なのか…?)
犬種と痛み感受性についての調査
アメリカのノースカロライナ州立大学獣医学部の研究チームは、獣医師と一般市民に対し「犬種と痛み感受性について」の調査を行い、調査結果を「PLos One」に発表しています。
この調査では、獣医師から1078件、一般市民から1053件の調査回答を収集し、データ解析をしました。
調査対象の犬種は、様々なサイズ、体の形、被毛タイプを含む28品種が選ばれ、回答者は犬の痛みの感度を「全く敏感ではない」から「想像できるなかで最も敏感」までの0~100のスケールで評価してくださいというものでした。
獣医師と一般市民の評価の違い
調査の結果、一般市民と獣医師の間では、「痛みに鈍感な犬種」「痛みに敏感な犬種」の評価に差がありました。
一般市民は、普段の生活で多くの犬種に遭遇する機会があまりないことや、犬が痛がる場面に遭遇する機会も少ないことから、想像上での評価も含まれている可能性がありました。
一方で、獣医師は日々多くの犬種と遭遇し、犬が痛がる場面に遭遇する機会が多いです。そして、獣医師の評価は一般市民と比べるとばらつきがあまり無く、評価が一致している傾向にあり、一般市民の回答よりも信憑性が高いと考えることができます。
ただ、「犬種によって痛みの反応が違う」と感じる割合は、一般市民は95%、獣医師は100%といった結果であったため、犬種によって痛みの感受性に違いはある可能性は高いことがうかがえます。
では、痛みに敏感な犬種、痛みに鈍感な犬種はどのような種類なのでしょうか?
<獣医師が評価した最も痛みに敏感な犬>
1位:チワワ
2位:マルチーズ
3位:ハスキー
4位:ポメラニアン
<獣医師が評価した最も痛みに鈍感な犬>
1位:ラブラドール・レトリバー
2位:ピットブル
3位:マスティフ
4位:ゴールデン・レトリバー
皆さんのご想像は当たりましたでしょうか?
因みに、一般市民の回答者たちは「犬種によって痛みの感受性の違い」は犬のサイズが関係すると考えていました。大きな犬は痛みに鈍感で、小さい犬は痛みに敏感と評価する傾向にありました。また、危険犬種と認定されているようなピットブル、ジャーマンシェパード、ロットワイラーは、最も痛みに鈍感であると思っていました。
一方で、獣医師の見解は異なります。犬の痛みの感受性に犬のサイズは関係ないと評価しています。例えば、獣医師が評価した最も痛みに敏感な犬種の上位3位内に大型犬であるハスキーがランクインしています。また、ジャーマンシェパードも上位にランクインしています。
また獣医師は、犬種によって痛みに対する感受性が異なる主な要因は、遺伝的要素であり、犬種の特定である気質も関係する可能性があると考えています。
💡なぜ犬種によって痛みの感じ方に違いがある?
考えられる理由として、特定の犬は痛みに鈍感になるようにブリーディングをされた可能性があります。例えば、闘犬が痛みに敏感だと、戦うことが非常に難しくなるでしょう。
特定の犬種のブリーダーは、痛みに鈍感な個体(親)を選択し、繁殖していた可能性が高いです。
同じ出来事でも犬種によって捉え方が違う?
犬種によって、痛みの感じ方に違いがある可能性が高いことが分かりました。つまり、犬種によって、同じ刺激でも感じ方は違うということです。
例えば、上に放り投げた手のひらサイズのゴムボールが犬の体にぶつかるとします。
痛みに鈍感なラブラドールやマスティフであれば、特に痛みを感じないでしょう。一方で、痛みに最も敏感なチワワは痛みを感じ、大きく反応するかもしれません。
痛みを敏感に感じとるということは、恐怖心も抱きやすくなるともいえます。そして、それは「ちょっとしたことでもストレスを感じやすい」「トラウマになりやすい」ことにも繋がる可能性があります。
例えば、抱っこ・ブラシ・爪切りなどは人が誤った方法で行うと、痛みを感じて嫌悪感を抱きやすくなる代表例です。痛みに敏感な犬種を飼っている方は、過保護になる必要性はありませんが、こういったことを頭の片隅に置いておくとよいかもしれません。